〈親父のお供〉
親父は、養子である。貧しいはずの家には、陸王のバイク、ダットサントラックがあった。彼の道楽だ。『ドドドド、ドドドド、』親父の後ろにしがみついた。おんぶ紐で我が子を落とさないよう親父の背中にしばりつけられて、田んぼの畦道を疾走する。子供には、ドキドキワクワクだった。ある日、ダットラに竹の棒と電線、昇柱器、胴綱、腰道具を積んで、兄貴と私も乗せて山の方に向かった。本業の電気工事にでも行くものと思っていた。よくある事だったから。しかし、この日は違った。川が流れる田んぼの真ん中に車を止めた。電柱に昇り電線をつないで降りてきて、『お前らは、川の下で待ってろ!川に入るなよ!』見ていると、竹の棒の先にアルミの輪っかを付けて、そこに電柱からの電線を接続して、おもむろに川に差し込んだのだ。少しすると、『よーし、川に入れ!』兄貴と私は、バケツを持って中に入ると、腹を上にしたアカハラという魚が上から何匹も流れてくるのだ。何を隠そう親父は、電気屋。よくぞこういう事を考えたものだ。